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 『釜石四近鐵鑛床地質調査報文』
  (農商務技師大塚専一誌 明治二十六年十月 臨時製鐵事業調査委員会)



餅  鉄
鉄鉱の漂流したるもの谷間に漂積し、その形団礫状をなすもの、砂子畑の砂子澤、橋野の諸渓、大橋の諸渓、および栗木鉄山の渓流に散在す。しかしてその流鉄鉱を釜石地方にては餅鉄と称す。けだし餅鉄の性たる漂礫の永日間水中に埋没したるものなれば、鉄鉱中にまじる硫化鉄および銅は漸次に酸化作用を受け、硫酸化合物となり溶却し、後に酸化鉄を遺残す。ゆえに硫鉄鉱の質たる製鉄に有害なる銅および硫黄分なきをもって、溶融したる鉱はその質極めて粘着力強く、あたかも軟らかなる餅の如くなれば、これを餅鉄と称するものなりという。往昔製鉄事業の幼稚なるの際に鍛冶職これを刀剣類を製するに供用したりという。河水に漂積するものの外になお山間土砂中に塊礫となり散在するものあり。例えば下有住村において耕地中往々礫となり混するものあり。その他唄貝村において土砂中に含有するものは、輝緑ひん岩質凝灰岩の蛮岩となるものの中に包蔵せらるる鉄鉱礫の漂流し、土砂に埋没したるものに過ぎざるものなり。栗木鉄山においては餅鉄を採集し、岩鉄を溶鉱炉に投入するに際し幾分の餅鉄を混ず。これ製鉄を美ならしめんと欲するにあり。
 


   国会図書館の原文(82ページ)



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